長い1日 in Bugaboo〜前編〜
旅にトラブルはつきものだ。
多少痛手を受けたとしても最終的になんとか解決できれば、トラブルは笑い話として、はたまた旅のちょっとしたアクセントとして、振り返った時思い出に彩りを加えてくれる。
今回もそうなればいいと願うのだけど…
キャンモアに到着すると、ここに住むクライマー仲間の菊池君が出迎えてくれ、最近のバム事情から地元の岩場情報、道路状況など詳しく教えてくれた。
ここまで、行く先々色んな友人に助けられ、楽しく順調に旅ができている。
本当みんなに感謝だなあ!
バガブーは今回の目的地の中でも楽しみにしている場所の1つ。
バムの溜まり場というスポーツセンターの広い駐車場に車を止め、車の奥にしまっていたアルパインクライミングの道具を引っ張り出す。
パタゴニアぶりのアルパインクライミングに、緊張とワクワクの入り混じった気持ちで準備を進めた。
ヒゲさんもわたしもはじめてのバガブー。
3日間好天が続きそうなので、まずは1本足慣らしで登ってみよう、と出発した。
キャンモアを夜出発し途中一泊。
早朝ブリスコという小さな商店が1軒しかない集落から登山口へ続く、40キロのダートを走り始めた。
舗装道路からのこのダート道はちょっとした悪路として知られているけれど、なんだ、大したことない。
行き交う車も結構なスピードで走り抜けていく。大丈夫そうだ。
そんな油断がまずかった。
ガゴッ!プシュー。
変な音がした。でもそのまま走り続ける。
ガタガタガタガタ。車の揺れが大きい。
「ん?なんか、おかしいぞ。」車を止める。
「うわ、パンクしてる!」
タイヤは5センチほど裂け、潰れていた。
でも、まだ焦らない。スペアタイヤがあるからね。
ダートも半分は過ぎている。
「ちゃっちゃと交換して、このまま登山口まで行ってしまおう。」
早速交換。
そしてタイヤを見た後、2人で顔をしかめた。
ここぞとばかりに活躍してくれる姿を想像していた私たちの期待に反して、スペアタイヤは、もう現役引退ですよ、と言わんばかりにしょんぼりと沈んでいた。
スペアタイヤは古く、その上空気が抜けていたのだ。
ついてない。
この状態では、何とか登山口まで行けたとしても、帰り道、悲惨なことになるのは目に見えていた。
しょうがない。一旦ダートが始まるブリスコまで戻って、小さな商店で空気を入れてもらおう。
スペアタイヤで走り出す。
とにかく慎重にゆっくり、ゆっくり走った。
でも、努力むなしく、しばらく行くと車の揺れが大きくなり、不穏な空気が車内を覆い始める。
「さやか、タイヤ確認してみろ。」
窓を開け、恐る恐るタイヤを見ると、タイヤはぺしゃんこになっていた。
スペアタイヤもパンク。
うわー、これはまずいことになってきたぞ。
でも、私たちにはこのタイヤで走り続けることしかできない。
スペアタイヤさん、どうにか頑張ってください。
助手席に座るわたしは、そう祈るのみ。
でも、彼にこのダート道を耐え切れる力はなかった。
タイヤからガラガラガラガラという音が鳴り出す。
車を降りると、後ろに転がる黒いタイヤ。
ホイールは残っているけど、ボコボコ。
もう一度、パンクしたタイヤに交換するしかない。
パンクタイヤで走り出す。
というか、「歩き出す」と言ったほうがいいかもしれないくらいのスピード。
どうにか、まずは商店までもってくれー。と願いながら、その先のことを考えると、さらに不安が募り、気持ちが沈んだ。
ここは田舎。近くにタイヤが変えられるような整備工場はあるのだろうか。
薄い自動車保険にしか入っていないわたしたちには、レッカーしてもらうという選択肢はない。
今回の好天期間でバガブーで登るのは難しいかもしれない。
というか、本当それどころじゃない!
どうなっちゃうのー、わたしたち!
さやか